月の神官 6 「Tradition-shard」

「昔、とある村に1人の少女が住んでいました。
 その少女は小さい頃に神様からもらった不思議な力を持っていました。
 少女は本を読むのが大好きなので、本をいっぱい読みました。
 そうして、その場面を思い浮かべるとそれが少しだけ、本当になるのです」

 子供達はおとなしく聞いている。
 エマはそのまま、読み続ける。

「また、少女は感情がとても豊かで、よく笑い、怒り、泣く子でした。
 そんな風に素直だったためか、自然に直接影響を与えることもできました。
 気分で天気が少しだけ、変わってしまうという力です」

 子供達からちょっとだけ、声があがる。

「けれど、その少女が大きくなるにつれて、力も強くなっていきました。
 ウサギを思い浮かべると、家の中に小さなウサギが出てくる。
 最初はその程度のものだったのが、だんだん大きなものになってきました。
 オオカミを思い浮かべたら、村の中にオオカミが現れる。
 魚を思い浮かべたら、道に魚が降ってくる。
 どんどん周りの人が困るようになってきました。
 天気だって同じでした。
 少女が悲しむと雨や雪が。悲しみがひどい時には雷も一緒に。
 ずっと笑っていたら、その間はずっと晴れる。
 村の天気が一定しなくなってきたのです」

 子供達はいつのまにか再び静かに聞き入っている。
 部屋の隅で壁にもたれかかったスカーも、目を閉じて耳を傾けている。

「村の人達は困ってしまいました。このままだと、生活ができなくなってしまうからです。
 だから、村の人達は、彼女をどうにかしようと考えました。
 村人達はたくさん考えて、一つの結論を出しました。
 少女がいなくなればそれで良い。
 けど、他の村や町へやったとしても、同じようなことが起こるだけ。
 それなら、村の奥に封印してしまおう。
 そう言う結論でした。
 しかし、村の人達にそういう力はありません。だから、各地から7人の術士を呼びました」

「そのひとはどこからきたの?」
 1人の子供が、突然たずねてきた。

「そうですわね…山を越えたり、海を渡ったりした所にある、とても遠い国から。でしょうか。
 そうして、いろんなところからやってきた術師達は1週間少女を封印する方法を考えました。
 みんな、その少女を殺してしまうのはかわいそうだと思ったので、できるだけ傷つけないで封印する方法を考えていたのです」

 話は続く。

「そうして新月の晩、術師たちは眠っていた少女を近くの森に作った祠へと封じました。
 こうして、この村は前と同じような気候が戻ってきました。
 少女は眠り続け、今でも世界のどこかで、自分の力におびえることなく幸せな夢を見ながら眠っているということです」

 と、話を締めくくり、エマは本を閉じた。

 □ ■ □

「さて、今日のお話しはこれまでです。もう夜も更けてまいりました。皆様、お気をつけてお帰りくださいませ」
 その後、3つほどの話をし、子供達にクッキーを配って帰宅を促す。
「じゃーね、おねえちゃん」
「また、お話してね。クッキーも美味しかったよ」
 子供達は口々に感想を言いつつ、親に手を引かれて帰路へとついた。
 そうして、その部屋には読んでしまった本を抱えたエマとスカーの二人きりとなる。
「スカー、如何でしたか?子供向けの話ですから、少々退屈だったかもしれませんが」
 と、未だに目を閉じているスカーの方を向く。
「――――退屈、ねぇ」
 そうポツリと呟いて、スカーは目を開く。
 そのままの格好でエマへ視線だけを向ける。
「退屈どころか、逆にとても楽しかったわ」
 向けられた瞳は、紅。
「その色……ルーラ、ですか?」
「ご名答。力足りないから、外側はスカーフィアのままだけど」
 エマの問いにルーラはくすりと笑い、月光の髪をつまんで答える。
「それにしても―――懐かしい話を聞いたわ」
「懐かしい?」
「えぇ。貴方が最初に読んだ話。とても、とても懐かしい話だった。でも、私の知ってる話とはちょっと違う」
 赤い瞳のスカー、もとい、ルーラは相変わらずの冷たい瞳で話し続ける。
「その話が間違ってる、なんてことは言わないけど、片方の正義に寄り過ぎた話だった、と言うのが私の感想」
 どう?と言う視線を向ける。
「たしかに、少女のことについては考えが浅かったと思います」
 エマがそう言うと、ルーラの表情がちょっとだけ嬉しそうに見えた。
「意見の一致があったところで、その村のその後を話してあげましょうか?」
 まるでいたずらをする子供のような瞳で、エマを見上げる。
 エマが今持つ、その本にも載ってない、村のその後。
 彼女は思わず頷いた。
「その少女を封じた村は今でも存在するわ。でも、その話に出てくる村は、一度滅んだの」
 村に被害を与えていた少女がいなくなって、元通りになったのではなく、滅んだ。
 今まで考えていたのとはまったく逆の答えに、思わず声をあげた。
「何でですか?今まで困っていたものが無くなって。なぜ、滅ぶのですか?」
「なぜって。答えは簡単なことよ?」
 ルーラはその問いに、相変わらずの冷たい瞳で応える。
「その少女だって、自分の能力に悩んでいなかったはずは無いわ。むしろ、己自身が一番忌み嫌っていたはずよ。だから、なるべく外に出ないよう、感情を出さないよう、どうにかしようとしたはず」
 ふと、紅い瞳に影がよぎる。
「そして、少女の封印は完全ではなかったし、見る夢だって幸せなんか程遠いものだった。だから、自分がどんな状況に置かれているかもすぐに把握できて、最悪な夢で必死に自分を見つけて。自分でもどうしようもない事は分かっている。でも、今まで以上の怒りと、悲しみがあって、その感情が影響を与えた。ここまでは分かる?」
 エマはただ頷くのみ。
「で、その為にそこの気候は大荒れ。当然、作物だってとれなくなる。その後は分かるわね」
 作物が取れないなら、その村は手放すか、そのまま滅ぶかしか残ってない。
「きっと、貴方の想像どおりよ。そのあとは少女の怒りもある程度落ち着いて。気候が元に戻ったところで、新たな村が出来る。そして、その祠を守るための守護者も移り住んできた。これがその後の話」
 いつのまにか高く上った月の光が、月光色の髪と赤い瞳を照らす。
 エマは魅入られたようにその瞳を見つめる。
 エマの頭の中は、やけにすっきりしていた。どうして気づかなかったのか、と思うくらい馴染んだ話だったのに。
 祠に封じられた少女、その封印は不完全で。村は一度滅び、守護者が移り住んだのが今の村。
 祠に封じられた少女、その封印は不完全で。解放されたその時、守護者の少女に近づいた。
 話の繋がりは、わかる。祠に封じられた少女は彼女ではないか。ここまではなんとか繋がる。
 ただ、一箇所。それだけが、この推論の確信を揺らす。
 この推測があっているとしても。あの伝承はかなり昔のものだ。いつから伝わるのかは知らないが、「出来事」は「昔話」になり「言い伝え」になり、「伝承」となる。ここまで発展する時間というものは数十年なんて小さくなる。
 思わず難しい顔をしていたのか、思考をさえぎるようにルーラが話しかける。
「ぁ、そうそう。エマ=クレア。スカーフィアから私の話は聞いた?」
「はい……聞きましたわ。あくまでスカーの推測として、ですけど……」
 その返事に、ルーラは満足したようだった。口の端を吊り上げ、目を閉じて笑う。
「あぁ、それで十分。あの子の推測は大体当たりよ。第六感っていうの?その辺は家系の血をちゃんと受け継いでるみたいで勘はいいから」
 なんてことないように呟き、「それで?」と小さく言葉を続ける。
「まだ腑に落ちない顔してるわね……答えたいのは山々だけど、それは自分で探して頂戴。時間切れだわ。またねエマ=クレア。機会があったら会いましょう?」
「ぁ…」
 一方的に話を打ち切られたエマがうろたえたその隙。ルーラが瞬きをすると同時に、赤い瞳は闇の色へと戻ってしまった。
「…?どうかしましたか?」
 先程とは正反対の瞳が、エマを見上げる。その瞳はまさに、事情の分からない第三者のそれ。
 エマは、その瞳に今すぐ問いかけるのは諦めた。だから、個室に戻って。今までの情報とともに検証しようと考える。
「いえ…いつまでもここに居るわけには行きませんから、部屋に戻りましょう」

                         [To be continued later...]

月の神官第六弾です。昔話です。
普段は他の人が読みます。偶然必然運命どんな言葉が当てはまるでしょうか?
どれであれ出会ったことに変わりはなく。話は進み続けます。お好きな言葉をどうぞ。
彼女達のお話はこれからも続きます。もうしばらくお付き合いくださいませ。

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