私の住む町には、とても古い櫻の木がある。
そう。「桜」ではなくて「櫻」。字が違うのには理由があるらしく。
曰く。十年に一度紅い花が咲く。
曰く。この地に人がやってくる前からずっとある。
曰く。……お約束だが、木の下には想いを遂げられなかった人の身体が埋まっている。
曰く。その人の幽霊は未だにそこに留まっていて、近づく人を捕らえてしまう。
と、同じクラスの子が話してくれた。
それは私のお気に入りの場所。これまでそんなこと知らずに過ごしていたのに。
私、怖い話嫌いなんです。
そんな櫻の木の下で。
私はなぜか、見知らぬ少年の下敷きになっていた。ぃゃ、本当に言葉の通り。下敷き。
それは卒業式の日。好きだった先輩に告白しようとして、する前に見事玉砕してしまった私は、無意識のうちにここへ足を運んでいた。怖くなったといってもやっぱりココはお気に入りの場所。嬉しい時も悲しい時も、大好きなこの場所で過ごした。そんなこの木に会えないのはとても寂しくて。気が付いたら夕暮れ間近のこの時間、前のように足を運んでいた。
ずっと堪えていた、悲しい気持ち。誰にも言えないまま叶わないものになってしまった。この櫻の木は何も言わずに聞いてくれる。だから。向かい合った木にだけは、何も隠すこと無く涙を流す。そこになぜか降ってきたのが。今私の上で伸びている少年。
なんで、人が振ってきたのか。流れていた涙もぴたりと止まり。混乱した頭のまま、その少年に目をやる。さらっとした黒い髪。着ている服は……なぜか国語の便覧に出てくるような古い服。えぇとなんていうんだっけ。なんて思わず考え込んでみたりもする。
狩衣だっけ、直衣だっけ、とそこまで考えてそれどころじゃないと頭を振る。
「…ぁ、ぁの。大丈夫、ですか……?」
そっと声をかけると、彼はすぐさま反応した。