* 雨 *
良く晴れた日だった。
君は相変わらず僕と手を繋いでくれない。
はっきり言わないとだめなのかも知れない。
しかもこんな暑い日だ。
今日も無理なんだろうな・・・
二人で並んで歩く
この距離がもどかしい
歩きなれたアーケードを抜けるとそこには太陽。
お前のせいでまだ手もつなげないんだぞ!
心の中で太陽に文句を言ってみる。
「ねえ、ねえってば」
「えっ?なに?」
どうやら先ほどから話しかけられていたようだ。
「もう、なに寝ぼけてんのよ」
少し怒っているのか?
「ごめん、大丈夫・・・」
心の中で太陽に文句を言っていたとは言えない。
「それよりアイス食べましょう!こんなに暑いんですもの」
シャツをパタパタとさせる。
「あ、そうだね・・・暑いし」
「で、なんでぼくは二つもアイス持ってるのかな」
「私がふたつ食べるからよ」
「いや、溶けるし」
「大丈夫よ、間に合ってみせるわ!」
すでに半分近く平らげている。
「もし溶けそうになったら・・・」
「冷やすのよ!」
無理だ。
「無理だよ・・・」
思わず心と言葉が同期する。
「なら手がべたべたになるだけよ、あなたの」
「それは嫌だな、少し食べていい?」
「むぅ・・・しょうがないわね、少しだけよ」
しぶしぶ了解してくれた。
これで僕の手がべとべとになることだけは避けられそうだ。
「ただし、どうしても仕方ないときだけよ」
「わかってるよ・・・」
「おいしかったわね!」
結局ひとりでほぼ二つ食べてしまった。
しかし僕のぶんアイスは彼女のアイスを気にしすぎたせいか
見事に溶け、途中で落としてしまった。
ああ、まだ半分も食べてなかったのに・・・
仕方なく近くの百貨店で手を洗う。
「遅〜い。いつまで洗ってるのよ」
待ちくたびれたと全身で表現している。
まったくわがままなやつだよ・・・
それから本屋、服屋、CDショップいろいろ見てまわる。
もちろん僕はただついていくだけだ。
時間もたって夕方になり気温もだいぶ下がる。
「ねえ?どこか行きたいとことかないの?」
「う〜ん、もう大体回ったかな」
「ホント?なんか私について回ってるだけな気がしたけど?」
「いや、僕も本とか服とか見るつもりだったから」
これは本当だ。
それにこういう風に振り回されるのは嫌いじゃない。
「じゃあなにかやりたいことは?」
君と手を繋ぐこと
なんて言えるわけない。
「そうだね、いつものとこ行こうか?」
「河原?いつも通ってるじゃない?」
そういつも帰り道に通っている河原。
あそこは僕らの思い出の場所だ。
あそこで僕は告白した。
そして君が”うん”って言ってくれた場所だ。
あそこなら上手くいくんじゃないかとふと思った。
二人で並んで歩く。
僕の隣にはリズミカルに君の手がゆれている。
よし繋ぐぞと意気込んだ瞬間。
君は走り出した。
何もそこまで嫌がらなくても・・・
「かわいい〜」
犬か・・・犬、犬め〜
前には子供が引っ張っている柴犬がいた。
君は本当に犬が好きだよね。
「バイバイ!」
しばらくじゃれた後ようやく犬と子供が去っていってくれた。
はぁ・・・やっと二人きりだ。
川沿いにゆっくりと歩く。
僕らの影を引き伸ばしている夕日は大きく
とても綺麗な光景だ。
でもそれは別れの時間が近いことを告げているわけで・・・
勇気を出していかないと・・・
なんだか付き合う前に戻ったみたいに緊張する。
そしてついに僕は・・・
「ねえ!」
「ねえ、こっち向いて」
僕と同時に君がしゃべる始める。
僕はあっけにとられて言葉が続かない。
君の顔がこっちを向いている。
二人の影がゆっくりと近づいて・・・
そして重なった。
それは一瞬
だけど永遠
ひどく強烈で
ひどく儚かった
そしてゆっくりと離れて・・・
「・・・・」
僕は言葉が出ない。
言葉も、思考も何もかも君に持っていかれたようだ。
「行こう」
君が歩き始める。
「あ、あぁ・・」
あわてて彼女についていくといつもと何かが少し違う。
彼女の手が後ろに伸びている。
何かを探しているように・・・・
「ちょっと、なにやっているの?」
君が立ち止まる。
「ほら!まったく鈍いんだから・・・」
手が差し出される。
先ほどの不思議な手の動きの意味に初めて気づく
”手を繋ごう”
そう言ってくれていたのだ。
「手繋ぐの嫌いだと思ってたよ」
手を繋いでゆっくりと歩く。
「うーん、みんなの前ではあんまり繋ぎたくないかも・・・」
「じゃあ、どうして・・・?」
「そんなの私が繋ぎたいと思ったからよ」
「じゃあ、その前のも?」
「嫌ならそんなことするわけないじゃない!」
「そうだよね」
「そうよ!」
はっきりいって怒っているのか喜んでいるのかわからない口調だ。
いや、きっと喜んでいるのだろう・・・
だって僕はこんなに幸せなんだから。
君の手は僕より少し小さく
そして柔らかい。
ずっと繋ごうと思っていた。
でも上手くいかなかった。
それを君はいとも簡単に
思った瞬間にそれを実行した。
「敵わないな、ホント」
君は僕より狭い歩幅なのに僕をより前を進んでいる。
手を引っ張られた僕は仕方なく歩くペースを上げることにした。