* 6月の雨に寄せて *
「知ってる?虹って実は国によって色の数が違うんだって」
こう君が教えてくれたのはいつだっただろう?
「虹は七色だろ?」
そこまで興味の無かった僕はそう適当に答えた。
「日本では一般的にそうだよね。でも私が言いたいのは何色かじゃないんだよ」
じゃあ何?と聞くと彼女は少し笑って、こう答えた。
「同じものもいろんな見方があるんだな……って。誰かの虹は五色かもしれないし、七色かも知れないんだよ」
それがとても大切なことのように言う彼女が今ではとても懐かしい。
あれから数年たって、また梅雨の季節が来た。結局、僕らはちょっとしたことで別れてしまった。そのきっかけはとても小さいもののように僕には思えた。それがどうしてそこまで気になるのか僕には理解できなかった。珍しく雨上がりの雲の切れ間から虹が見えた。あのときのことを思い出す。
「やっぱ七色だよな……」
彼女は何色に見えていたんだろう? とふと思った。するといままで自分が彼女の気持ちを考えていなかったことに気づいた。
「ああ、僕は……」
彼女は僕の言葉や行動の中に僕には見えないものまで感じ取っていたのだろう。でも僕は彼女が何を見ているのか気にもしなかった。僕は自分の思っている通りに彼女に伝わっていると疑いもしなかった。彼女の虹は何色だったのだろう? きっと僕より多く見えていたのだろう。
虹は消え、また雨が降ってきた。周りを見るといろんな色の傘が咲いていた。僕も傘を開いた。どうしようもない気分になっても濡れるのは嫌だった。雨が強くなって、駆け足で家へと帰る。雨には降り止んで欲しくなかった。虹はもう見たくなかった。
帰る途中でまた未練たらしくこう考えてしまった。
君の虹は何色だった?